近況報告14

2020年3月8日

オハイオ州立大学

沖本 民生

 

早いもので12年が経ちました。何のことかというと、私が結婚してからです。2008年3月8日に結婚式を挙げて12年です。妻に電話で日ごろの感謝と変わらぬ愛を伝えましたが「あぁ、そういえば記念日だったね。」と意に介さぬ感じで流されました。まあ、12年も経てば仕方ない、こんなものなのかもしれません。昨年のバレンタインデーには妻、娘から手紙と服が届きましたが、今年はありませんでした。私がアメリカに来て1年、みんな父親がいない生活に慣れ、たくましく成長してくれているようです。

さて、日本はコロナウイルスで大変そうですね。アメリカも日本から若干遅れて大騒ぎになってきました。ニュースを見ればコロナ一色です。大統領予備選挙よりも多くの時間が割かれています。そして報道を見ていて感じるのは自分の感覚と非医療従事者の方の感覚との大きな溝です。働き始めて12年で普通の感覚を失ってしまったんだなと再認識させられます。実習中の学生さんには疾患が感染症でも癌でも、病気に関してあまり知らない今の感覚を忘れないことを強調するのですが。また、アメリカと日本の予防方法の違い、例えばマスクに関する報道の仕方やジムのリスクアセスメントなどは興味深いです。詳細を書くと政治的な議論になりそうなのでここでは書くのは控えたいと思います。

ところで、アメリカでは初対面の人ともスモールトークをすることがありますが、その際に避けることが勧められているテーマがあります。政治と宗教です。先日、夕方の6時ころマウスの部屋の前で突然話しかけられました。50歳くらいの獣医の黒人男性でした。「どこから来たんだ?中国か?」私はこれから行う1時間のマウスワークに備えてつけていたイヤホンを外して答えました。「いや、日本から来たんだ。」しばしの身の上話の後、彼はこう聞いてきました。「離れた家族に感謝と愛は伝えているか?」「もちろん。気持ちを伝えるのは大事だよね。」私はアグリーしました。彼は続けます。「ジーザスクライストにも感謝しているか?」私の答えを待たず彼はさらに続けます。「ほら、俺を見ろ。実際は50歳なのに、みんなからは40代にしか見えないと言われるんだ。これは毎日彼(ジーザス)に感謝しているからだ。」ん、話が若干変わってきたぞ、というか年齢は見た目通りだぞ、と思いましたが傾聴します。「今コロナが流行っているけど、あれにかかった人たちは彼への感謝が足りないんだ。感謝していたらウイルスが自然に消えていくんだ。」このエチオピア人男性の考えを否定する気も英語力もないのですが、サイエンティストの端くれとしてアグリーはせずに「へえ、そういう風に考えているんだね」とだけ答えました。対立を嫌う典型的日本人の私なりに導き出した返事でした。その後も20分くらいでしょうか、キリスト教のすばらしさを教えてくれました。そして最後に「ジョセフプリンスは最高だから見てみるといいよ。」ということで話が終わりました。ここまで積極的に宗教の話をされたのは初めてで、宗教に対して強い思いのある人だったら議論になるかもしれないと感じました。この後「ジョセフプリンス」よりも先に「話の切り上げ方 英語」をググったのは彼には内緒です。

そんな彼と今度は日曜日の夕方、早く帰りたい気持ちいっぱいの中で会いました。「ジョセフプリンスは見たか?」彼は聞いてきます。お、いきなりですか?「見たよ。すごい大きな会場で話してるんだね。驚いた。」実際興味はあったのでチラ見しておいて良かったです。ただ、内容に触れることは避けました。それでも彼は今回も20分くらいキリスト教のすばらしさを説いてくれました。そして最後に「おれはこの道を通るつもりはなかったんだ。これを向こうの通りにある棚に入れなければいけないから。でもなぜかこっちに来てしまって、お前に会った。これは彼(ジーザスクライスト)がお前と話すように導いたんだ。今日も彼に感謝だ。」と言いました。本当にジーザスが導いてくださったのか、偶然なのか、はたまた私の八百万の神々への感謝の気持ちが足りないがために罰が当たったのか、私には分かりません。ただ一つ私に分かるのは、妻をはじめとする全員に感謝しないといけないということと、私の家族への愛は一方通行だということでしょうか。来週予定通り一時帰国できれば、双方向に変えられるよう努力してみようと思います。

関係者の皆様、いつもありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。